こんにちはキャリーライフ中川です。
予算に合わせて命を守る方法
自宅や実家の耐震性に不安があっても、改修費用を聞いて諦めてしまう家庭があります。国土交通省が示すモデルケースでは、築50年、2階建て、延べ面積約100平方メートルの木造住宅を耐震改修する場合、約224万円かかる例があります。実際の費用は、住宅の広さ、構造、劣化状態、補強方法によって大きく変わります。
「数百万円かかるなら、何もできない」と考えてしまうかもしれません。耐震対策には住宅全体を補強する方法だけでなく、屋根を軽くする、普段過ごす場所の安全を高める、耐震シェルターや防災ベッドを設置するなど、複数の選択肢があります。
今回は、予算や年齢、今後の居住期間を踏まえながら、地震から命を守るためにどのような方法を選べるのか整理します。

目次
1.最初に耐震診断を受ける意味
2.住宅全体を強くする耐震改修
3.大規模な工事が難しい場合の減災対策
4.費用だけでなく「何を守るか」から決める
1.最初に耐震診断を受ける意味
耐震改修を考えるとき、最初から工事内容を決める必要はありません。まず確認したいのは、現在の住宅がどこに弱点を抱えているかです。
専門家による耐震診断では、主に次のような点を確認します。
- 地盤や基礎の状態
- 地震に抵抗する壁の量と配置
- 柱や筋かいの接合部分
- 屋根の重さ
- 建物の形や増築部分
- 雨漏りやシロアリなどの劣化
- 過去の改修や地震による損傷
同じ築年数、同じ広さの住宅でも、弱い部分は異なります。壁が不足している家もあれば、壁はあっても配置が偏っている家があります。基礎や土台の劣化が先に問題となる場合もあります。診断をせずに工事を進めると、見た目のリフォームに費用を使っても、建物全体の耐震性が十分に改善しない可能性があります。広島市では、1981年5月31日以前に着工した一定の戸建て木造住宅を対象に、耐震診断費用の3分の2、上限4万円を補助しています。対象となる構造や申込時期などの条件があるため、診断を依頼する前に確認が必要です。自分でできる簡易的なチェックもありますが、それだけで建物の安全性を確定できるわけではありません。簡易診断は専門家へ相談するきっかけとして使い、改修を検討するときは建築士などによる診断を受けることが基本です。
2.住宅全体を強くする耐震改修
本格的な耐震改修では、診断結果をもとに、建物全体が地震の力に耐えられるよう補強計画を立てます。
木造住宅で行われる主な工事には、次のようなものがあります。
▪壁を増やし、配置を整える
地震に抵抗する耐力壁を増やします。
壁を一か所へ集中させるのではなく、建物全体のバランスを見ながら配置することが重要です。南側に大きな窓が多く、北側に壁が集中している住宅などは、揺れたときに建物がねじれる可能性があります。
▪柱や筋かいの接合部を補強する
柱、土台、梁、筋かいが外れないよう、接合金物などを取り付けます。壁だけを強くしても、柱が土台から抜ければ建物を支えられません。
▪基礎を補強する
ひび割れや無筋の基礎に補強を行い、上部の建物から伝わる力を受けられるようにします。
ただし、劣化や地盤の状態によって工事内容は変わります。
▪屋根を軽くする
重い屋根は、地震時に建物へかかる力を大きくします。瓦屋根から軽量な屋根材へ変更することで、建物上部の重さを減らす方法があります。屋根の軽量化だけで十分とは限らず、壁や接合部との組み合わせを診断結果に基づいて判断します。
広島市の2026年度制度では、一定の要件を満たす住宅について、上部構造評点を1.0以上にする耐震改修工事を対象に、工事費の80%、上限115万円を補助しています。募集件数や所得、居住、着工時期などの条件があり、交付決定前に契約や着工をすると補助対象になりません。自治体によって、対象住宅、補助率、上限額、受付期間は異なります。見積もりを取る前に、市町の住宅担当窓口へ確認することが大切です。
3.大規模な工事が難しい場合の減災対策
費用や年齢、建物の状態によっては、住宅全体を現在の基準に近づける耐震改修が難しいこともあります。国土交通省は、能登半島地震を踏まえ、本格的な耐震改修を行えない場合でも、地震による危険を減らす方法をまとめています。ここで注意したいのは、部分的な対策を行ったからといって、住宅全体が倒壊しない建物になるとは限らないことです。
本格的な耐震改修と、被害を小さくする減災対策は分けて考える必要があります。
▪耐震シェルターを設ける
住宅の中に、強い箱型の空間を設置する方法です。万一、建物が大きく壊れた場合にも、普段過ごす部屋や寝室に生存空間を確保することを目的とします。住宅全体を補強する工事ではありませんが、高齢者が長い時間を過ごす部屋を優先して守る方法になります。
▪防災ベッド・耐震ベッドを設置する
就寝中の安全を確保するため、ベッドの周囲を強いフレームで覆う設備です。地震は夜間にも起こります。寝ている間に建物や家具が倒れてきた場合に、身体を守る空間を確保します。
広島市では、耐震改修が難しい一定の高齢者・障害者世帯などを対象に、耐震シェルターまたは防災ベッドの設置費用の2分の1、上限12万5,000円を補助しています。1981年5月以前に着工した一定の木造住宅であることや、診断結果などの条件があります。
▪寝室や生活場所を変える
耐震性の低い2階や増築部分を使わず、比較的安全性を確保しやすい1階の部屋へ寝室を移すことも考えられます。家具が少なく、外へ避難しやすい場所を普段の生活の中心にします。「1階だから安全」「この部屋なら絶対に大丈夫」とは限りません。建物の弱点を診断したうえで決める必要があります。
▪家具を固定する
家具の固定は、住宅自体の耐震性能を高める工事ではありません。地震時のけがや避難経路の閉塞を防ぐうえで重要です。寝室には背の高い家具を置かない。家具を壁へ固定する。出入口や廊下の近くに倒れやすい物を置かない。窓ガラスの飛散防止や、食器棚の扉が開かない対策も考えられます。
▪感震ブレーカーを設置する
地震による停電後、通電が再開したときに、倒れた暖房器具や傷ついた電気配線から出火することがあります。一定の揺れを感知して電気を遮断する感震ブレーカーは、地震後の火災を防ぐ対策の一つです。
広島市の耐震シェルター等設置補助では、一定の条件のもと、分電盤タイプの感震ブレーカー設置費用の2分の1、上限4万円も補助対象としています。
4.費用だけでなく「何を守るか」から決める
耐震対策を考えるとき、工事費の比較から始めると判断しにくくなります。先に整理したいのは、誰が、どのくらいの期間、その家で暮らす予定なのかです。
▪長く住み続ける予定がある
今後も10年、20年と暮らす予定があり、建物の状態も活用できるのであれば、住宅全体の耐震改修を検討する意味があります。耐震工事と合わせて、断熱、段差、水回りなどを整える方法もあります。工事範囲を増やせば費用も大きくなるため、「耐震に必要な工事」と「暮らしを便利にする工事」を分けて見積もることが大切です。
▪高齢の親が一人または夫婦で暮らしている
住宅全体を改修する費用や工事中の負担が大きい場合は、耐震シェルター、防災ベッド、家具固定、寝室の移動など、命を守る場所を優先する考え方があります。同時に、買い物、通院、介護、庭や住宅の管理まで含め、今の家に住み続けられる条件を確認します。
▪数年以内に住み替えを考えている
近いうちに子どもの近くや高齢者向け住宅へ移る予定があるなら、大規模な改修だけが答えではありません。住み替えまでの期間を安全に過ごす対策と、移転時期、家財整理、その後の売却や解体を合わせて考えます。
▪将来、子どもが家を引き継ぐ予定がある
親だけでなく、次に住む家族にとっても価値のある改修かを確認します。耐震改修を行っても、立地や間取り、建物の劣化によっては、将来の利用が難しい場合があります。
「補助金が出るから工事をする」のではなく、改修後に誰が、どのように使うのかまで整理する必要があります。
まとめ
耐震対策は、住宅全体を大規模に改修する方法だけではありません。まず耐震診断を受け、建物の弱点を知る。長く住み続けるなら、壁、接合部、基礎、屋根などを計画的に補強する。
本格的な改修が難しければ、耐震シェルター、防災ベッド、家具固定、寝室の移動など、命を守るための減災対策を選ぶ。大切なのは、費用を理由に何もしない状態にしないことです。
ただし、小さな対策を行ったことで、住宅全体が安全になったと誤解してはいけません。
住宅全体を倒壊しにくくする耐震改修と、万一のときに被害を減らす対策は、それぞれ役割が異なります。どの方法を選ぶかは、建物の状態だけでなく、住む人の年齢、予算、今後の居住期間、家族が引き継ぐ可能性によって変わります。
「家を完全に直せるか」だけではなく、
「限られた条件の中で、まず誰の命を、どこで守るか」
から考えることが、現実的な耐震対策の第一歩です。
つづく