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こんにちはキャリーライフ中川です。

高齢化・費用・地方の壁

住宅の耐震化は、地震から命を守るために必要です。危険性を理解しながら耐震診断や改修へ踏み切れない家庭は少なくありません。熊本地震から10年がたっても、地域によって住宅の耐震化率に大きな差が残っていることが報じられています。

古い住宅が多い地域では、所有者の高齢化も進んでいます。「大きなお金をかけて、あと何年住むのか」「子どもはこの家を引き継がない」「補助金があっても、自己負担を用意できない」耐震化が進まない理由は、防災意識の低さだけではありません。

今回は、全国の耐震化率の数字だけでは見えにくい、高齢化、費用、地域差、住宅の将来という問題を考えます。

目次

1.全国の耐震化率90%でも、約570万戸に不安が残る
2.古い住宅が多い地域ほど、所有者の高齢化も進む
3.補助金があっても改修へ踏み切れない理由
4.耐震化は「工事をするか」だけの問題ではない

国土交通省の推計では、2023年時点の全国の住宅耐震化率は約90%です。住宅約5,570万戸のうち、耐震性があると推計される住宅は約5,000万戸。残る約570万戸は、耐震性が不十分とされています。「全国で9割まで進んだ」と聞くと、耐震化の問題はおおむね解決したように感じるかもしれません。住宅の種類によって状況は異なります。戸建て住宅の耐震化率は約85%で、共同住宅の約96%を下回っています。耐震性が不十分な住宅約570万戸のうち、約450万戸は戸建て住宅です。耐震化が遅れている中心は、古い木造戸建て住宅です。もう一つ注意したいのは、「耐震化率が上がること」と「古い住宅が耐震改修されたこと」は、必ずしも同じではない点です。

耐震化率は、

  • 耐震改修を行う
  • 古い住宅を解体・建て替える
  • 誰も住まなくなり住宅として数えられなくなる
  • 耐震性のある新築住宅が増える

といった変化によっても上昇します。

国土交通省も、耐震改修だけでなく、除却・建て替え、非居住化、新しい住宅の供給によって耐震化率が伸びてきたと整理しています。全国平均が上がっていても、現在住んでいる古い家が安全になったとは限りません。自宅や実家については、全国の割合ではなく、その建物の築年、構造、劣化、改修履歴を個別に確認する必要があります。

住宅の耐震化率には、地域差があります。国土交通省によると、市町村別では約9割の自治体が、全国値である耐震化率90%を下回っています。耐震化率が低い自治体ほど、高齢化率が高い傾向も示されています。熊本県では、2023年の住宅耐震化率は89.5%でした。全国平均とほぼ同じ水準ですが、県内には耐震性が不十分な住宅が約7万5,000戸残っています。地域別に見ると、熊本市周辺では耐震化率が比較的高い一方、阿蘇、八代、水俣・芦北、球磨、天草などでは低い傾向があります。水俣・芦北と天草では65%未満、球磨地域でも65%以上70%未満とされています。大きな地震を経験した地域でも、すべての住宅が改修されたわけではありません。地方で耐震化が進みにくい背景には、古い住宅と高齢者世帯が重なっていることがあります。長年住み続けた家に高齢の一人暮らしや夫婦だけで暮らしている場合、

「今さら大がかりな工事をしたくない」

「工事中の片付けや仮住まいが負担になる」

「自分たちが住まなくなれば、子どもは家を処分するだろう」

という考えが生まれます。

子どもが遠方に住んでいれば、業者探し、見積もり、補助申請、工事中の立ち会いまで、親だけで進めることになります。耐震性への不安はあっても、日々の生活に大きな支障がなければ、判断を先送りしやすくなります。

地震はいつ起きるか分かりません。一方、耐震改修の費用と手間は、今すぐ目の前に現れます。この時間感覚の違いも、行動へ移りにくい理由の一つです。

耐震改修には、自治体による診断費や工事費の補助制度があります。補助金があれば誰もが工事できるわけではありません。

▪自己負担が残る

耐震改修費は、住宅の広さ、劣化状況、基礎、壁の配置、屋根の重さなどによって変わります。補助対象となる工事や補助上限も自治体ごとに異なり、工事費の全額が補助されるとは限りません。年金生活の高齢者にとって、数十万円、数百万円の自己負担は大きな判断になります。熊本県も、耐震化が進まない要因として改修費用の負担を挙げ、補助率の見直しや本人負担の軽減を進めてきました。

▪耐震工事以外の修繕も必要になる

古い住宅では、耐震補強だけでは済まない場合があります。雨漏り、シロアリ被害、基礎の劣化、屋根や外壁、水回りの老朽化が見つかれば、同時に修繕が必要になります。耐震改修費だけを想定していたのに、見積額が大きくなり、工事を見送ることも考えられます。

▪どこへ相談すればよいか分からない

耐震診断を誰に頼むのか。

見積もりが適切か。

補助制度の対象になるのか。

工事後に本当に安全になるのか。

住宅所有者が自分だけで判断するのは簡単ではありません。悪質な訪問販売や不要な工事への不安から、業者へ相談すること自体を避ける人もいます。

▪家の将来が決まっていない

最も大きいのは、耐震化した後の住宅を誰が使うか決まっていないことです。

親は住み続けたい。

子どもは実家を引き継がない。

将来売却するのか、解体するのか、賃貸や活用ができるのかも分からない。

その状態で大きな費用をかける判断は難しくなります。耐震改修の必要性は理解していても、住宅の将来像がなければ、支出の意味を見いだしにくくなります。

広島県でも、住宅耐震化率は2020年度時点で84.5%とされ、県は2025年度に92%、2035年度に100%を目標としてきました。全国平均より低い水準から、地域の住宅事情に合わせて耐震化を進める必要があります。目標を掲げ、補助制度を用意するだけでは、個々の家庭の迷いまでは解消できません。

耐震化の話になると、選択肢は「工事をする」か「何もしない」かの二つに見えます。

実際には、住宅と家族の状況によって複数の考え方があります。

  • 住宅全体を耐震改修して住み続ける
  • 寝室や普段過ごす場所を優先して補強する
  • 耐震シェルターや耐震ベッドを検討する
  • 家具を固定し、避難経路を確保する
  • 建て替える
  • 安全性の高い住宅へ住み替える
  • 子どもの近くへ移る
  • 一定期間管理した後、売却や解体を検討する

重要なのは、改修費の安さだけで決めないことです。

まず考えたいのは、

  • 誰が住んでいるか
  • 何年程度住み続けたいか
  • 身体や介護の状態はどうか
  • 工事中の生活に対応できるか
  • 家族は費用や手続きを支援できるか
  • 将来、家を引き継ぐ人がいるか
  • 改修後に売却や活用が可能か

という点です。

例えば、親が今後も長く住み続ける希望を持ち、子どもも住宅を活用する予定があるなら、耐震改修へ費用をかける意味は大きくなります。一方、親の身体状況や地域の利便性を考え、数年以内に住み替えを予定しているなら、住宅全体の大規模改修とは異なる安全対策が現実的な場合もあります。耐震性が不足しているからといって、直ちに売却や解体を選ぶ必要はありません。反対に、長く住んだ家だからという理由だけで、改修費や管理負担を考えずに住み続けることにもリスクがあります。耐震化は建物だけの問題ではなく、本人の暮らしと家族の将来を合わせて考える問題です。

全国の住宅耐震化率は約90%まで上昇しています。耐震性が不十分な住宅は約570万戸残り、その多くを戸建て住宅が占めています。また、全国平均だけでは地域差が見えません。

古い住宅が多く、高齢化が進む地域ほど、費用、手続き、工事中の負担、住宅の将来が障壁となり、耐震化が進みにくい傾向があります。

危険性を知らないから動かないのではありません。

危険性は理解していても、

「この家にいつまで住むのか」

「誰が費用を負担するのか」

「工事をした後、誰が引き継ぐのか」

が決まっていないため、判断できない家庭があります。耐震化を進めるには、補助金や工事方法の説明だけでなく、住み続ける、部分的に安全を高める、住み替える、将来家じまいするという選択肢を、家族の状況に合わせて整理することが必要です。耐震改修は、古い住宅をただ直すための工事ではありません。その家で誰が、どのくらいの期間、どのように暮らすのかを確認し、命を守る方法を選ぶことです。

つづく