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相続放棄を選ぶ人が増えています。最高裁判所の司法統計によると、2025年に全国の家庭裁判所が新たに受け付けた相続放棄の申述は32万3,524件でした。

2019年は22万5,416件だったため、6年間で約10万件増えています。2023年は28万2,785件、2024年は30万8,750件と、近年は30万件を超える規模になっています。

「相続放棄」というと、親に多額の借金があった場合に行うものと思われがちです。

もちろん借金は大きな理由の一つです。現在は、使う予定のない実家、遠方の土地、管理に費用がかかる不動産など、「財産ではあるけれど引き継ぐと負担になるもの」も相続の問題になっています。裁判所の司法統計では相続放棄をした理由別の件数までは公表されていないことです。「何が原因で何件増えた」と断定することはできません。

今回は、公的な統計や住宅・土地をめぐる変化から、相続放棄が増えている背景を考えます。

目次

1.相続放棄は年間32万件を超えた
2.相続そのものが身近な出来事になっている
3.「財産」だった家や土地が負担になることも
4.相続放棄の増加から見えてくる家族の変化

1.相続放棄は年間32万件を超えた

2025年に家庭裁判所が新たに受け付けた相続放棄の申述は32万3,524件でした。

相続放棄とは、亡くなった人の財産や債務を引き継がないため、家庭裁判所に申し出る手続きです。預貯金や土地などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて相続しないことになります。

ここ数年の件数を見ると、

2019年 22万5,416件
2020年 23万4,732件
2021年 25万1,994件
2022年 26万497件
2023年 28万2,785件
2024年 30万8,750件
2025年 32万3,524件

と増えています。相続放棄は、一部の特殊な相続だけで使われる制度とは言いにくい規模になっています。では、なぜこれほど増えているのでしょうか。

2.相続そのものが身近な出来事になっている

日本で相続が発生する件数そのものが多くなっていることです。

厚生労働省の人口動態統計によると、2025年の死亡数は158万9,533人でした。2025年は前年より減少したものの、長期的には死亡数が増えてきました。2003年に年間100万人を超え、その後も高い水準で推移しています。人が亡くなれば、財産の多い少ないにかかわらず相続が発生します。相続税がかかるほど財産がある家庭だけの話ではありません。

預金が少額でも、実家や田畑、山林などの不動産を所有していれば、それも相続財産です。

特に高齢化が進む中で、これまで親世代が持っていた住宅や土地を、子どもの世代が引き継ぐ場面は今後も続きます。相続放棄が増えている背景を見るときには、まず相続そのものに直面する家庭が非常に多い社会になっていることを考える必要があります。

3.「財産」だった家や土地が負担になることも

もう一つ大きな変化が、不動産です。

以前は、「土地を持っていれば財産になる」「実家は子どもが引き継ぐもの」という感覚も強くありました。すべての土地や住宅に買い手や使い道があるわけではありません。

法務省も相続土地国庫帰属制度を創設した背景として、相続した土地について「遠くに住んでいて利用する予定がない」「管理が必要だが負担が大きい」といった理由から、土地を手放したいというニーズが高まっていることを挙げています。

国土交通省も、近年は維持管理の負担が大きいことや活用の見込みが乏しいことなどを理由として、相続放棄が選択されるケースが見られるとしています。

例えば地方にある実家を相続しても、自分は都市部で生活していて戻る予定がない場合があります。売ろうとしても買い手が見つからない。建物を解体するにも費用が必要になる。所有している間は固定資産税や草刈り、建物の管理も続きます。

国土交通省によると、使用目的のない空き家は2003年の212万戸から2023年には386万戸へ増加しました。また、空き家が発生する原因の半分以上は相続とされています。

現在は、「何をもらえるか」だけではなく、「何を引き継ぐことになるのか」が重要になっています。

4.相続放棄の増加から見えてくる家族の変化

相続放棄の増加は、借金や不動産だけで説明できるものではありません。家族の暮らし方も変わっています。親は地方の実家に暮らし、子どもは進学や就職をきっかけに別の地域で生活する。子ども自身もすでに住宅を持ち、親の家を必要としていない。こうした家庭では、親から住宅を相続しても「そこに住む」という選択肢が最初からない場合があります。

さらに、土地や建物がどこにあるのか、借入金が残っているのか、固定資産税はいくらなのかを、親以外の家族が知らないこともあります。

相続が始まってから初めて調べて、「こんな土地があったのか」「家はあるけれど売れそうにない」「管理を続けるのは難しい」と分かるケースも考えられます。

相続放棄の件数が増えていることは、単に「相続したくない人が増えた」と見るだけでは十分ではありません。家族が離れて暮らし、親が持っている財産と子どもが必要とする財産が一致しなくなっている。

そんな社会の変化も背景にあります。

まとめ

2025年の相続放棄の申述は32万3,524件となり、近年増加しています。裁判所は相続放棄をした理由ごとの統計を公表していないため、「この理由で何件増えた」と単純に結論づけることはできません。

一方、公的な資料からは、相続を取り巻く環境が変化していることが見えてきます。

高齢化によって相続に直面する家庭は多く、相続した土地について「使わない」「遠くて管理できない」「維持負担が大きい」と感じる人もいます。さらに、親と子が別々の地域で暮らし、子ども自身がすでに住まいを持っていれば、実家を引き継いでも使い道がないことがあります。

これまでの相続では、「財産を誰に残すか」が中心でした。これからは、それに加えて、「残された人が、その財産を本当に引き継げるのか」まで考える必要があります。

相続放棄が年間32万件を超えているという数字は、相続が「財産を受け取る話」だけではなく、家や土地、借金、管理まで含めて引き継ぐかどうかを判断する時代になっていることを示す一つの材料といえるでしょう。

つづく