こんにちはキャリーライフ中川です。
見積書に出ない「家族が動くコスト」を考える
実家じまいには、いくらかかるのでしょうか。片付け費用。解体費用。不動産の仲介手数料。
相続や登記の費用。こうした金額を思い浮かべる方が多いと思います。
ある事例がです。東京に住むNさんの家族が、長崎県佐世保市にある祖母の実家を整理した事例です。祖母はエンディングノートを細かく作り、遺産の分け方や家の売却、葬儀についても意思を残していました。家族も生前から少しずつ片付けを進めていました。それでも、一連の実家じまいには約2年半。かかった費用は約250万円。
そのうち200万円以上を占めたのが東京と長崎を往復する交通費だったといいます。更地にする場合には約400万円の解体見積もりも出ていましたが、最終的には建物を残したまま売却することができました。「準備していても、これだけかかるのか」と金額に目が向きます。この事例から見えてくるのは、250万円という金額だけではありません。
今回は、実家じまいの「見えにくい負担」について考えてみます。

目次
1.実家じまいの費用は「家に払うお金」だけではない
2.遠くにある実家ほど「家族が動く」ことが負担になる
3.準備しても費用がかかるなら、準備する意味は何か
4.実家の価値を「いくらで売れるか」だけで考えない
1.実家じまいの費用は「家に払うお金」だけではない
実家じまいの費用を調べると、一般的には、片付け。家財処分。測量。登記。解体。売却。
といった項目が出てきます。これらは業者から見積書が出るため、比較的分かりやすい費用です。ところが、今回の事例で最も大きかったのは交通費でした。
「実家そのものにかかった費用」ではなく、「家族が実家へ行くためにかかった費用」
です。ここは、実家じまいを考えるときに見落としやすいところです。
実際には交通費だけではありません。仕事を休む。新幹線や飛行機を予約する。場合によっては宿泊する。現地で片付けをする。不動産会社と会う。役所へ行く。近隣へ挨拶する。家族で相談する。また帰る。一度で終わらなければ、これを何度も繰り返します。
例えば実家まで車で30分なら、休日に少しずつ進めることもできます。しかし、広島に住む子どもの実家が東京や九州、四国の遠方にあるとしたらどうでしょう。同じ「実家じまい」でも、負担はまったく違ってきます。
実家じまいには、お金の距離だけでなく、物理的な距離が大きく影響するということです。
2.遠くにある実家ほど「家族が動く」ことが負担になる
今は、親と子どもが同じ地域に住み続けるとは限りません。
進学。就職。結婚。転勤。さまざまな理由で子どもが地元を離れ、そのまま別の地域に生活基盤を持つ家庭もあります。
親が元気な間は、それほど問題になりません。年に数回帰省する。電話をする。お盆や正月に顔を合わせる。その関係が続きます。ところが、親が施設へ入ったり、亡くなったりすると、実家との関わり方が突然変わります。「帰る場所」だった実家が、「誰かが管理しなければならない不動産」にもなるからです。
全国の空き家は2023年時点で900万戸、空き家率は13.8%。1993年からの30年間で約2倍になっています。ただ、900万戸という大きな数字だけを見ても、自分の家庭の負担はなかなか想像できません。
むしろ考えてみたいのは、「親が住まなくなったら、この家を誰が見に行くのか」という身近な問いです。兄が県外。妹も県外。実家の近くに親族はいない。庭がある。荷物が多い。台風が来たら確認が必要。売却するとしても立ち会いが必要。この条件が重なれば、家の市場価格とは別に、家族の時間と移動が必要になります。
今回の250万円という事例は、その負担を数字として見せてくれた例だと思います。
3.準備しても費用がかかるなら、準備する意味は何か
今回の家族は、かなり準備をしていました。祖母自身の意思があった。エンディングノートもあった。資金も準備されていた。家族も生前から片付けを進めていた。それでも約250万円かかった。「早く準備しても結局お金がかかるなら、意味がないのでは?」と思うかもしれません。私は、むしろここが今回の事例で最も重要なところだと思います。
準備の目的は、実家じまいの費用をゼロにすることではありません。
準備することで、「親は家をどうしたかったのか分からない」「兄弟で意見が違う」「書類がどこにあるか分からない」「誰に相談したらいいか分からない」「解体するしかないと思っていた」という、判断が止まる原因を減らすことができます。
今回も約400万円という解体見積もりが出ていましたが、最終的には建物を残した状態で売却しています。もし最初から、「古い家だから壊すしかない」と決めていたら、結果は違っていたかもしれません。
売る。残す。貸す。直す。解体する。その時点の建物や地域の状況によって選択肢は変わります。
だから準備とは、「何をするかを早く決めてしまうこと」ではなく、「必要になったときに選べる状態をつくっておくこと」なのだと思います。
4.実家の価値を「いくらで売れるか」だけで考えない
実家の相談では、「この家はいくらで売れますか?」という話になりやすいものです。もちろん、不動産としての価格を知ることは重要です。しかし今回の事例を見ると、もう一つの見方が必要になります。
例えば、300万円で売れる実家があったとします。数字だけなら、「300万円の資産がある」
と考えられます。ところが、その家を売却するまでに、何度も遠方から帰る。長期間管理する。庭を手入れする。家財を整理する。建物を修繕する。手続きを行う。家族の仕事や休日を使う。といった負担が必要なら、家族にとっての実際の意味は少し違ってきます。
反対に、売却価格がそれほど高くない住宅でも、親が元気なうちに家財が整理されている。
土地と建物の書類が揃っている。境界が分かっている。近所のことを親から聞いている。誰に相談するか決まっている。本人の希望を家族が知っている。という状態なら、その後の負担は変わります。
実家の将来を考えるときは、「いくらで売れる家か」だけでなく、「この家を次へ渡すまでに、誰がどのくらい動かなければならない家か」という見方も必要です。
これは、不動産査定書にはなかなか出てこない数字です。
まとめ
今回紹介された実家じまいでは、準備をしていた家族でも約250万円の費用がかかりました。しかし、私が特に印象に残ったのは金額そのものではありません。その大部分が交通費だったことです。
実家じまいには、家を片付ける費用。家を壊す費用。家を売る費用。だけでなく、家族が動くためのお金と時間が必要になる。この視点は、実家が遠くなるほど重要になります。
そしてもう一つ。準備をしたからといって、実家じまいが無料になるわけではありません。家が古ければ修繕や解体が必要になることもあります。遠方なら交通費もかかります。
時間も必要です。それでも準備には意味があります。
準備とは、将来の出費をすべてなくすことではなく、家族が困ったときに「選べる状態」を残しておくこと。実家を売るかどうか。片付けを始めるかどうか。そこまで今決める必要はありません。ただ、一度だけでも、「もし親がこの家に住めなくなったら、誰がここへ来るんだろう」「その人は何回くらい来ることになるんだろう」と想像してみる。
そこから見えてくるものは、不動産の価格とは違う「実家の将来コスト」なのかもしれません。
全国に空き家が900万戸ある時代。空き家予防とは、家が空き家にならないようにすることだけではなく、その家を引き継ぐ家族の負担まで、少し早く見えるようにしておくことも含まれるのではないでしょうか。
つづく。