こんにちはキャリーライフ中川です。
高齢者の移動を支える国・自治体・地域の仕組み
運転に少し不安を感じ始めた。家族からも、「そろそろ免許返納を考えたら」と言われている。本人も、事故を起こす前に運転をやめた方がよいと思っている。それでも、「車を手放したら生活できない」という現実があります。スーパーまで遠い。
病院へ行くにも車が必要。
バス停までは歩けない。
タクシーを毎回使えば費用がかかる。
近くに送迎してくれる家族もいない。
こうした地域では、免許返納は本人の決断だけでは解決できません。これまでは、返納後の移動を本人や家族が何とかする場面も多くありました。現在、国は「交通空白」という問題を掲げ、自治体、交通事業者、医療・福祉などが一緒になって地域の移動を支える方向へ動き始めています。
今回は、免許返納を「本人の問題」にせず、その後の生活を社会がどう支えようとしているのかを考えます。

目次
1.「運転したい」のではなく「車がないと暮らせない」
2.返納後は、まだ本人・家族の努力に頼る部分がある
3.国・自治体は「交通空白」を埋める方向へ動いている
4.免許返納を本人だけの責任にしない社会へ
1.「運転したい」のではなく「車がないと暮らせない」
高齢者が免許返納をためらうと、「運転に自信があるから」「本人が返したくないから」と考えてしまうことがあります。特に地方や中山間地域では事情が違います。高齢者の免許自主返納への意識が高まる一方、中山間地域では公共交通機関が限られ、買い物、医療機関への受診、社会参加などのための移動支援が必要なケースが増えていることが指摘されています。
例えば、郊外の戸建て住宅で一人暮らしをしている高齢者を考えてみます。
スーパーまで車で10分。
病院まで車で15分。
最寄り駅は遠い。
バスは一日に数本。
これまでなら、車に乗ればすべて自分でできます。ところが免許を返納した瞬間から、「明日の食料をどう買うか」「次の通院はどうするか」という問題が発生します。
本人にとっては、免許証を返すことではなく、これまで自分でできていた生活をどう続けるかが問題なのです。そのため、「危ないから返納しましょう」という言葉だけでは十分ではありません。安全のために運転をやめるのであれば、その後の生活も同時に考える必要があります。
2.返納後は、まだ本人・家族の努力に頼る部分がある
現在も、免許返納後の支援はあります。広島県では、2026年7月時点で、自主返納者を対象としたタクシー運賃の割引、商品・サービスの割引、市町による支援などを一覧で公表しています。支援情報は、広島市だけではなく、呉市、福山市、三次市、庄原市、東広島市、廿日市市、安芸高田市など県内各地域ごとに整理されています。返納後を支える仕組みが少しずつ広がっていることを示しています。一方で、支援内容や対象者は一律ではありません。県も、事業所によって対象年齢や特典内容が異なるため確認が必要だと案内しています。また、「高齢者への交通支援」と「免許返納者への支援」が同じとは限りません。
例えば広島市には、65歳以上の要支援・要介護者のうち一定の要件を満たす人を対象に、外出支援として交通費を助成する制度があります。2026年度の制度では、要支援者は2,500円、要介護者は5,000円分の利用券が交付され、タクシーチケットや一部地域の乗合タクシー回数券などから選択できます。これは有効な支援ですが、「免許を返納した70代の元気な人なら誰でも利用できる」という制度ではありません。年齢、介護状態、所得、居住地など、それぞれに条件があります。
支援制度はある。
地域の交通もある。
民間の割引もある。
それでも、その人の生活すべてを一つの制度で支えられるわけではありません。
結果として、家族が病院へ送る。子どもが週末に買い物へ連れて行く。本人がタクシー代を負担する。近所の人にお願いする。というように、本人や家族の努力で補っている部分も残ります。免許返納を安全対策として進めるのであれば、この「返した後の空白」をどう埋めるかが重要になります。
3.国・自治体は「交通空白」を埋める方向へ動いている
この問題は、国も大きな課題として捉え始めています。国土交通省では現在、「交通空白」という言葉を使っています。地域住民が、タクシー。合タクシー。日本版ライドシェア。公共ライドシェア。などを十分に利用できない地域をなくし、全国の自治体で地域の移動手段を確保することを目指しています。2026年度には「交通空白」解消等リ・デザイン全面展開プロジェクトも進められています。
対象となっているのは、
- デマンド交通
- 乗合タクシー
- 公共ライドシェア
- 日本版ライドシェア
などの導入だけではありません。
医療、福祉、教育など、交通以外の分野とも連携して移動を支える仕組みづくりまで支援対象になっています。重要な変化です。れまで地域交通というと、「バス会社が路線を維持する」というイメージが強くありました。しかし人口が減り、運転手も不足する中で、大型バスを決まった時間に走らせるだけでは維持しにくい地域があります。
そこで、約があった時間に走る。複数の利用者が乗り合う。地域の車両やドライバーを活用する。福祉や医療の送迎と連携する。といった方法が考えられています。国は2026年度も、新たな交通サービスの導入や、複数主体による共同運行の仕組みづくりを支援しています。
広島市内でも、地域の実情に合わせた乗合タクシーが運行されています。
例えば福田地区の「ふれあいタクシー」は、団地と商業施設・病院などを結び、地域協議会と交通事業者によって運行されています。2026年現在、月・水・金曜日に1日6便が設定されています。
一つの大きな公共交通ですべてを支えるのではなく、地域によって必要な交通を小さく組み合わせていく。そうした考え方へ変わり始めています。
4.免許返納を本人だけの責任にしない社会へ
免許返納について考えるとき、「本人がいつ返すか」に注目が集まります。
しかし、もう一つ考えたいことがあります。社会は、安心して返納できる環境を用意できているか。ということです。
車を手放しても、
病院へ行ける。
買い物ができる。
人に会える。
地域活動へ参加できる。
そうした生活が続くのであれば、本人も返納を考えやすくなります。
反対に、
「返した後は家族に頼んでください」
「タクシーを自費で使ってください」
だけであれば、返納に踏み切れない人がいても不思議ではありません。
「返納を促す仕組み」から、「返納した後も暮らせる仕組み」へ移っていく途中なのだと思います。
まとめ
高齢者が免許を返さない理由を、「本人が頑固だから」だけで考えることはできません。地方や郊外では、車が生活そのものになっている家庭があります。免許を返せば事故のリスクを減らせる。その翌日から病院や買い物へ行けなくなる。この二つの問題を同時に解決しなければ、安心して免許を手放すことはできません。
現在は、自治体による助成。民間事業者による返納者支援。乗合タクシー。デマンド交通。公共ライドシェア。医療・福祉と交通の連携。など、返納後を支える仕組みが少しずつ広がっています。
一方、支援内容や対象者には地域差や条件があります。
だから今はまだ、政だけ。家族だけ。本人だけ。のどれか一つで解決するのではなく、複数の支援を組み合わせる段階です。免許返納を本当に進めるために必要なのは、「危ないから運転をやめてください」という言葉だけではありません。
「運転をやめても、あなたの暮らしは続けられます」と言える地域をつくることです。免許返納は、高齢者本人だけが努力して解決する問題から、地域全体で支える問題へ。
その支援の輪は、少しずつ広がり始めています。
つづく