こんにちはキャリーライフ中川です。
子どもの頃から何度も出入りしてきた実家。どの部屋に何があるか、玄関を開けたときの匂い、家族がいつも座っていた場所まで覚えている方もいるでしょう。では、「この家のことを説明してください」と言われたら、どこまで答えられるでしょうか。
この家は正確には何年に建ったのか。土地はどこまでが実家のものなのか。屋根や外壁は最後にいつ直したのか。図面は残っているのか。火災保険はどこで契約しているのか。親名義の土地は、本当にこの敷地だけなのか。長年知っている実家なのに、考えてみると「家そのもののこと」は意外と知らないものです。
親が元気なうちは、分からなければ聞けば済みます。しかし、突然の入院や施設への入居、相続などによって、その「聞けば分かる」ができなくなることがあります。実家の整理というと、荷物を減らすことや将来売るかどうかに目が向きがちですが、その前に確認しておきたいのが、家について誰が何を知っているのかです。

目次
1.知っている「実家」と、知らない「家の情報」
2.家には、建ててから今日までの履歴がある
3.書類には残らない「親しか知らないこと」もある
4.全部整理するより、まず「聞けば分かるうち」に
1.知っている「実家」と、知らない「家の情報」
例えば築40年の実家があるとします。「屋根は一度直したはず」「お風呂もリフォームした」「昔、隣との境界を確認したことがある」。親から何となく聞いた記憶はあっても、それが何年前で、どこの会社が工事をして、どんな内容だったのかまでは知らないことがあります。
土地についても同じです。毎日見ている庭や駐車場だからといって、家族が正確な境界や登記名義まで理解しているとは限りません。
火災保険についても、「たぶん入っている」は分かっていても、証券がどこにあり、建物と家財のどこまで補償されているかまでは知らない。それでも親が暮らしている間は、日常生活で困ることはほとんどありません。ところが、親が家の管理をできなくなると状況が変わります。家を修理しようとしたときに図面が見つからない。売却を考え始めて初めて土地の状況を調べる。相続してから、家族が知らなかった土地があったことに気づく。台風で被害を受け、そこで初めて火災保険の契約内容を探す。家は昨日までと同じ場所に建っているのに、その家を説明できる人がいなくなるだけで、家族にとって扱いにくい不動産へ変わってしまうことがあります。
2.家には、建ててから今日までの履歴がある
住宅にも「履歴」があります。国土交通省では、新築時の図面や建築確認に関する書類、点検結果、修繕やリフォームの記録などを「住宅履歴情報」と呼んでいます。こうした情報は、その後の点検や修繕だけでなく、将来住宅を売買するときにも活用できます。
例えば、屋根の状態を確認するときにも、10年前に全面改修したのか、傷んだ部分だけを補修したのかで見方は変わります。浴室や給湯設備、外壁、シロアリ対策、耐震改修なども、過去の工事記録があれば次に必要な修繕を考えやすくなります。まず確認しておきたいのは、特別な資料ではありません。新築時の図面や建築関係書類、固定資産税の通知書、登記関係書類、測量や境界に関する資料、火災・地震保険、リフォームの見積書や保証書など、「この家について分かるもの」です。
不動産の名義も確認しておきたいところです。2024年4月から相続登記が義務化され、相続によって不動産を取得したことを知った場合には、原則として3年以内に申請する必要があります。制度開始前に発生した相続で未登記の不動産についても対象となります。 さらに2026年2月からは「所有不動産記録証明制度」も始まりました。亡くなった親などが登記簿上所有していた不動産を一覧的に確認できる制度で、相続する不動産の把握や登記漏れの防止につなげるものです。 こうした制度が必要になった背景には、家族が親の所有する不動産をすべて把握できないケースがあることも関係しています。
「実家はこの土地と建物だけ」と家族が思っていても、実際には離れた場所に小さな土地や共有持分などが残っている可能性もあります。「親が知っているから大丈夫」で終わらせず、家族も少しずつ家の情報を知っておくことに意味があります。
3.書類には残らない「親しか知らないこと」もある
家について知っておきたいことは書類だけではありません。何十年もその家で暮らしている親だからこそ知っている情報があります。「大雨になると、庭のこの辺りに水がたまりやすい」「この壁は昔、一度雨漏りした」「冬になると外の水道管が凍りやすい」「隣との境界について、昔こういう話をした」「この木は隣へ伸びないように毎年切っている」「屋根を直してもらった会社は近所の○○さん」こうした話は、登記簿にも住宅図面にも書かれていません。将来子どもがその家を管理することになれば、とても役立つ情報です。
例えば親が施設へ入って実家が無人になったとき、「大雨の後はこの場所を確認した方がいい」と知っているだけでも違います。住宅を売る場合でも、過去の不具合や修繕について分かっていれば、専門家へ説明しやすくなります。また、家の中にも家族が知らないルールがあります。井戸を使っている、浄化槽の管理を頼んでいる、私道について近隣との取り決めがある、町内で管理している設備があるなど、その家や地域によって事情はさまざまです。
つまり、引き継ぐ必要があるのは土地と建物だけではありません。
「この家とどう付き合ってきたのか」という親の経験も、家の情報の一部なのです。
4.全部整理するより、まず「聞けば分かるうち」に
ここまで読むと、「実家の書類を全部整理しなければ」と感じるかもしれません。
そこまで大がかりに考えなくてもよいと思います。親に突然、「相続のために書類を全部出して」と言えば、構えてしまうかもしれません。それより帰省したときに、「そういえば、この家って何年に建てたんだっけ?」と聞くところから始めてもよいでしょう。「屋根を直したのはいつ?」「土地の書類はどこにある?」「火災保険はどこで入っている?」と、普段の会話の中で少しずつ聞くことができます。書類も完璧に分類する必要はありません。「家に関するものはこの引き出し」「土地関係はこのファイル」と、家族の誰かが保管場所を知っているだけでも大きな違いです。
リフォームの見積書や保証書、修繕したときの写真などがばらばらにあるなら、一つの箱やファイルへまとめる。それだけでも住宅の履歴が少しずつ残っていきます。書類にはならない親の話も一緒に聞いておく。実家の将来を考えるというと、「売る」「残す」「片付ける」という大きな決断から始めがちです。しかし、その答えを今すぐ出さなくても、この家について家族が知っていることを増やすことはできます。むしろ、それが先なのかもしれません。
まとめ
何十年も前からある実家。子どもの頃から知っていて、今でも帰れば安心する場所なのに、「この家について説明して」と聞かれると意外と答えられない。家を建てた時期や修繕履歴、土地の境界、登記、保険、図面、そして親しか知らない家の癖や近所との関係まで考えると、私たちは実家を知っているようで、実は「家そのもの」についてはあまり知らないことがあります。今すぐ実家じまいを始める必要はありませんし、将来売るか残すかを決める必要もありません。
ただ、親に聞ける今なら確認できることがあります。
「この家の書類って、どこにある?」その一言でもいいと思います。そこから、屋根を直した話や昔の土地の話など、今まで聞いたことのなかった「この家のこと」が出てくるかもしれません。家は残ります。しかし、その家について知っている人の記憶が、いつまでも同じように残るとは限りません。物を片付けることだけが実家の整理ではなく、親が元気なうちに、家についての情報や記憶を少しずつ家族へ渡しておく。
それも、将来の実家を考えるための大切な準備ではないでしょうか。
つづく。