自宅とは別に、よく訪れる地域がある。実家のある町へ定期的に帰っている。仕事やボランティアで、別の地域と継続的に関わっている。こうした人を、住所地とは別の地域でも「地域に関わる人」として登録する新しい仕組みが進んでいます。
それが、「ふるさと住民登録制度」です。
2025年6月、政府は地方創生2.0の基本構想の中で、この制度を創設する方針を正式に決定しました。住所地以外の地域に継続的に関わる人を登録し、「関係人口」を見える化することが目的です。今後10年間で、実人数1,000万人、延べ1億人の関係人口を目指す方針も示されています。名前だけを見ると、「住民票をもう一つ持てる制度」のように感じます。現在の住民票が二つになる制度ではありません。

目次
1.ふるさと住民登録制度とは?
2.「第二の住民票」とは何が違う?
3.登録すると何ができるようになる?
4.二拠点生活や実家との関係はどう変わる?
1.ふるさと住民登録制度とは?
これまで日本では、住民票のある自治体が、その人の正式な居住地として行政サービスを担ってきました。一方、現在は生活する場所と、関わる地域が必ずしも同じではありません。
東京に住みながら毎月地方へ通って仕事をする人。親の実家がある地域へ定期的に帰る人。ふるさと納税やボランティアをきっかけに、特定の地域と継続的に関わる人。二つの地域を行き来して生活する人。こうした人たちは地域にとって重要な存在ですが、住民票がなければ「誰が、どのくらい地域に関わっているのか」を自治体が把握しにくいという課題がありました。そこで国が進めているのが、ふるさと住民登録制度です。
制度では、住所地以外の地域に関心や関わりを持つ人がスマートフォンのアプリから自治体へ登録し、地域との関係を継続的に記録できる仕組みが想定されています。国は2026年6月、全国の自治体が共通して利用できる「ふるさと住民登録制度プラットフォーム」の整備方針を決定しました。総務省が共通システムを構築し、希望する自治体が利用する方向で制度設計が進んでいます。
2.「第二の住民票」とは何が違う?
以前、「第二の住民票」という言葉が報道などで使われたことがあります。そのため、
「住民票を二つの自治体に置けるようになるのか」「住民税を二つの地域に分けて払うのか」
と思う人もいるかもしれません。現在進められているふるさと住民登録制度は、住民基本台帳上の住民票を二つ持つ制度ではありません。今の住民票を置く自治体はそのままです。
そのうえで、別の地域との継続的な関係を登録し、「この地域にも関わっている人です」と確認できる仕組みをつくろうとしています。
正式な住所を増やす制度ではなく、地域とのつながりを登録する制度と考える方が分かりやすいでしょう。現在、住民税を二つの自治体へ分けて納める仕組みが導入されたわけでもありません。
国土交通省の検討資料では、将来的な課題として住民税の分納や行政サービスのあり方なども議論されていますが、現時点では検討段階です。
「ふるさと住民登録=第二の正式住所」と考えないことが重要です。
3.登録すると何ができるようになる?
2026年6月に示された制度設計では、登録には大きく二つの段階が想定されています。
一つは「ベーシック登録」です。関心のある自治体を登録すると、自治体から地域のイベント、活動、担い手募集など、自分の関心に応じた情報を受け取れる仕組みです。
もう一つが「プレミアム登録」です。地域でのボランティアや担い手活動など、一定の関わりを続けた人について、より深い関係を持つ人として登録し、官民による活動支援を受けられる仕組みが検討されています。スマートフォン上では、それぞれの登録証を表示できるようにする計画です。
将来は、「この地域によく行っています」「地域活動に参加しています」と本人が説明するだけではなく、登録によって地域との関係を示せるようになる可能性があります。
制度の狙いは、登録者へ特典を配ることだけではありません。
自治体側も、どんな人が地域に関心を持っているのか。どんな活動に参加しているのか。どのような支援があれば関わりを続けてもらえるのか。を把握しやすくなります。これまで見えにくかった「住民ではないけれど地域を支える人」を、地域の担い手としてつなげていく仕組みです。
4.二拠点生活や実家との関係はどう変わる?
この制度と特に相性が良いのが、二拠点生活です。国土交通省も、ふるさと住民登録制度の対象となる関係人口の一例として、二地域に居住する人を挙げています。例えば、普段は都市部で暮らしていても、月に何度か地方の実家で過ごしている人がいます。今までは、その地域に住宅を持っていても住民票がなければ、自治体との関係は分かりにくいものでした。
ふるさと住民登録制度が広がれば、地域のイベント情報を受け取る。地域活動に参加する。地域での関わりを記録する。自治体や地域企業から必要なサービスを受ける。
といったことが、一つの登録を通じてつながる可能性があります。
これは、地方へ完全に移住しなくても地域と関わり続けられる仕組みともいえます。実家についても同じです。「もう住んでいないから関係がない」ではなく、定期的に帰省したり、地域活動に参加したり、仕事の拠点として使ったりすることで、別の形で地域との関係を続けることができます。
これまで住宅は、住む家。住まなくなった家。という二つに分けて考えられがちでした。二地域居住やふるさと住民登録制度が広がれば、「毎日は住まないけれど、暮らしや地域との関係を持ち続ける家」という位置づけも増えていく可能性があります。
まとめ
ふるさと住民登録制度は、住民票を二つ持つ制度ではありません。今の住所を変えずに、別の地域との継続的な関係を登録し、「関係人口」として見えるようにする新しい仕組みです。
政府は2025年に制度創設を決定し、2026年6月には全国で利用できる共通プラットフォームの整備方針を決めました。現在は制度とシステムの構築が進められている段階です。
今後は、アプリを通じた自治体への登録、地域情報の受け取り、地域活動の記録、登録証の発行などが想定されています。重要なのは、この制度が単なる「地方応援アプリ」ではないことです。人口が減少する中、自治体にとっては、住民だけで地域を支えることが難しくなっています。
一方、私たちの暮らし方も、一つの地域だけで完結するとは限らなくなっています。
仕事をする場所。暮らす場所。実家のある場所。休日を過ごす場所。地域と関わる場所。
それぞれが違ってもいい時代になりつつあります。
「住民ではないから、その地域とは関係がない」から、「住んでいなくても地域と関わることができる」へ。ふるさと住民登録制度は、そんな新しい地域とのつながり方を制度として形にしようとする取り組みです。
つづく